fastapple's blog

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【書評】いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 を読んで


前々から読みたいと思っていたが、ようやく読んだ。よし、読もうと思ったキッカケは以下のブログの書評だった。

[書評] いつも「時間がない」あなたに ~ 欠乏の行動経済学 — Future Edu Tokyo

上記書評の埋め込みで、著者センディル・ムッライナタンのTED動画をみることができる。

これは、行動経済学の本だ。行動経済学は、人間の合理的ではない不合理な行動によって形成される経済を正しく読み取ろうとする学問である。

行動経済学で有名な効果といえば、コンコルド効果や授かり効果がある。こういった効果について、以下の記事によくまとまっていたので、参考にリンクを貼っておく。

cibea.jp

さて、この本では、なぜ「時間」や「お金」が足りない状況を改善できないのか?ということを明らかにしようと試みる。「時間」の不足、「お金」の不足から生じる心理的な不安。そういったものを「欠乏」という言葉で説明していくのが、この本の主張である。そして、欠乏は、さまざまな心理的効果を引き起こす。

完全に穿った見方かもしれないが、著者はインド出身ということなので、幼少期に目の当たりにしたであろう貧しさの実態というものを、どうすれば解決できるか?ということがひとつの行動原理にあるのかもしれない。

・欠乏が引き起こす悪い効果
トンネリング・・・例えば、お金の不足を心配しているとき、意識が幾分か不足に向いてしまっている。つまり「欠乏」に意識のリソースをいくらか使用してしまっている。人間の意識リソースにも限度があるという前提なので、そういった「欠乏」に意識を取られてしまっている場合、それを「トンネリング」と呼んでいる。

・欠乏が引き起こす良い効果
集中ボーナス・・・これは、実はトンネリングと同じことである。つまり集中すべき対象が「欠乏」の原因そのものであるなら、人はそれに意識を集中させることができるという意味だ。簡単にいえば、「欠乏」しているものを大事に使おうとすることで得られる効果だ。

では、実際に「時間」や「お金」の不足が起きてしまう理由について、もう少し考えてみる。そうすると「欠乏」が「欠乏」を呼ぶという悪循環がみえてくる。
例えば借金は、目先の問題をどうにかするために、将来の利益を犠牲にする行為である。著者は、このように、目先のことをどんどん片付けていくだけになってしまっている状況を「ジャグリング」と呼んでいる。これはお金だけではなく、時間についても言える。目先のタスクの解決に一生懸命になるあまり、予め少し手を打っておけばすぐ済んだようなタスクまで、「トンネリング」と共に襲ってくる。よって、ジャグリングを解消することはますます難しくなる。

・解決策
本書では、欠乏に対するいくつかの解決策を最後に示している。
スラック・・・これは、すき間のことだ。つまりお金なら貯金、時間なら、すこし何も予定のない時間を開けておくなどのすき間をつくるということだ。スラックをつくることは、当たり前だが、金銭面・時間面で余裕が全くないときには出来ない。つまり、余裕がある時にいかにこのスラックをつくっておくことが重要かということだ。しかし、これだけならそんなことは言われなくてもわかっているし、余計なお世話かもしれない。筆者はもう少し解決策に踏み込んでいく。

リマインダー・・・スラックは、計画的でない支出や時間のロスに対応するものだが、そういうことが許容範囲を超えて起これば、たちまちジャグリングが発生してしまう。そういったことを起こさないために利用できるのが、リマインダーだ。遠い未来の支出や予定について、適度なタイミングでとにかくリマインドを心がけること。なるべく精緻な未来予想、突発的な物事にも対応可能な未来予想をしようと心がけ、忘れそうな事項にはリマインダーを設定する。そうすることで、突発的な事故を回避することができるようになる。リマインダーは非常に重要だ。

心がけ節約・・・この表現は、少し本書の表現を改変した。スラックを食いつぶすような様々な罠が待っている世界では、その罠にはまらないように常に心がけが必要である。この心がけは人間の意識リソースをすり減らしてしまうし、実際、意識リソースが割けずに心がけを怠り、罠にハマってしまうことだってありうる。そこで、心がけが必要な作業はなるべく減らすようにする。リマインダーもその一種だが、例えば毎月必ず支払う必要のあるお金は、口座振込でなく引き落としにしておく。などのことだ。(もっとも、自分でタイミングを決めたいということもありうるので、いつも絶対にそれがよいとは言えない。全てはトレードオフである。)つまり出来る限り、トンネリングが起こっているときでもスラックを埋めないようにするのだ。

先手・・・これも本書の表現とは変えている。当然だが、余裕がある時に何をしておくのかが大事だ。精緻な未来予想をして、先手先手を打っておくことである。確率的に起こりうる事にも、問題が大きそうなものからきちんと対処していくこと。そういったことにまで対処できる人は少ないが、対処しておかなければ、必ずスラックを食いつぶす要因になる。起こりうることは、最悪のタイミングで起こる。というマーフィーの法則を心に留めて、先手を打つようにしたい。

処理能力の効率活用・・・人間の処理能力には、波があったりする。また、処理能力は摩耗していくものだと認識しておく。だから、処理能力が高い時間帯にやるべきことを決めておく。といったことが大事になってくる。つまり、自分がそのとき使える処理能力にすっぽり収まるようなタスクを常にこなすことができれば、処理効率は最大化することが出来る。それを意識すること。

などなど。解決策の方は、本書を読んで自分が咀嚼した内容を書いているので、少し異なる感想を持つ人もいるかもしれない。時間のない人には本書を読む時間さえ惜しいかもしれない(ので、上に自分なりに咀嚼した解を書いてしまったのを読むだけでもよいかもしれない。)が、余裕のあるときに実際に読んでみるといいかも。